社会問題への2つのアプローチ:ダイレクトサービスとシステムズチェンジ

Direct Service vs. Systems Change
Source: Ashoka Japan

社会にある問題はどうやって解決・軽減できるのだろうか?

人間の歴史が始まって以来、多くの人が考えてきたこの大きな問いですが、世界最大の社会起業家ネットワークASHOKAでは、大きく分けて二つのアプローチがあると考えています。それがダイレクトサービスとシステムズチェンジです。

ダイレクトサービス (Direct Service)
貧困層への食料配給や紛争地域での医療など、目の前の必要な助けを直接届ける方法。世界中で必要とされているが、応急処置的で継続しなければならず、根本的な解決には至らない。

システムズ・チェンジ (Systems Change)
世の中に深く根を張り、社会の一部となった複雑な「問題」の原因にアプローチし、根本的に解決する。政策へも影響を及ぼし、新しい「当たり前」を作っていく。

社会問題を根本的に解決するには、発生している一つひとつの問題に対処していくのではなく、そもそもその問題を生み出している原因・構造にアプローチしていく必要があります。

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ビル・ドレイトンは、このシステムズ・チェンジの必要性に焦点を当て、その担い手を意味する新しい言葉「ソーシャルアントレプレナー(社会起業家)」を造り、1980年活動母体としてASHOKAを創設しました。

従来的なチャリティの考え方であるダイレクトサービスを「穴の空いたバケツに水を注ぎ続ける」行為であると表現できますが、それに対してシステムズチェンジは、「バケツの穴を塞ぐ、もしくは穴の空いていないバケツを作る」ことを目指します。

(注:ここで気をつけていただきたいのは、 アショカがダイレクトサービスを否定しているといるわけではない、ということです。ただ、アショカ定義の社会起業家とは違う、対象のフィールドが異なるという意味です。)

 

マザーテレサとナイチンゲール

さて突然ですが、マザーテレサとフローレンス・ナイチンゲールのうち、システムズチェンジに近い考えをしていたのはどちらでしょう?

マザーテレサはカリスマ的な聖人です。亡くなった後も彼女の存在や生き方に影響を受ける人はたくさんいるでしょう。しかし彼女の活動は、彼女ありきで回っていたので、コルカタに施設は残っているものの、それが模倣されて拡大することはありません

貧しい人にご飯や住まいを与えるチャリティは素晴らしいですし、目の前で困っている人を助けるのに必要な活動ですが、それだけではインドの全ての人が貧困から抜け出すことはできません。

一方、ナイチンゲールは医療分野に統計学の考えを導入した人です。1850年代のクリミア戦争で看護婦として従軍し、戦場よりも病院での死亡が多いことを見つけた彼女は、死因を統計で分析し、病院の衛生状態を改善することで感染症の蔓延を防ぎ、死者を減らしたと言われています。

この時ナイチンゲールが用いた方法が現在の看護や衛生のベースとなっており、彼女の死後も、そのシステムが世界中の病院で機能し続けています。このような、新しい仕組みや当たり前を作るのがシステムズチェンジメーカーと呼ばれる人です。

いじめをなくすには

いじめを例にとってみます。自殺へつながることもある「いじめ」は全国で深刻な問題です。対処療法的な考え方をすると、いじめを報告させる、いじめっ子を罰する、いじめっ子の親と相談する、いじめホットラインを用意する、などの策が思いつくでしょう。

しかし、それを続けても「いじめがない学校」は実現しません。発生したいじめをなくす、という発想では、そもそもいじめが起きてしまうことを防げないからです。

カナダのアショカ・フェロー、メリー・ゴードン (Mary Gordon) が立ち上げたRoots of Empathy(ROE:ルーツオブエンパシー)では、「感情リテラシー」を教えるプログラムを全公立小学校に導入しています。感情リテラシーとは、自分の感情を知る能力のことで、「楽しい」「悲しい」「怒っている」などと自分の感情を言葉にできるようになると、相手の感情にも敏感になるのです。

さらにユニークなのは、赤ちゃんを教室に連れてくることです。みんなで赤ちゃんを囲んで観察し、「なんで泣いてると思う?」と問いかけます。メリーが「感情の劇場」と呼ぶ赤ちゃんは、感情を生のまま表現するので、小学生も自分たちの感情について話しやすくなるのです。赤ちゃんが来た次の週は、「ではあなたが最近泣いたのはいつ?なぜ?」と問いかけて話したり、そのことを絵で表現したりします。

このような9か月のプログラムを通し、感情リテラシーを手に入れた子供たちの間ではいじめや仲間はずれが90%減少し、喧嘩も50%減ったという調査結果が出ています。世界10か国以上で実施され、ROEクラスに参加した子どもの数は既に100万人を超えています。

このように、メリー・ゴードンは、感情リテラシーとエンパシーを育むことで、自分の感情も、他人の気持ちも理解できる子どもを育て、いじめのない学校だけでなく、より寛容な社会を作り出すことを目指しています。

(さらに詳しくはこちらの記事をご覧ください)

4段階のソーシャル・インパクト

four level of social impact

最後に、これらの社会変革が続いていった先にどんな未来が見えるのかをご紹介いたします。

食料、医療、その他のサービスなど、助けを必要としている人達に直接的にかかわる奉仕的活動が、「ダイレクトサービス」です。貧困層への食事の配給、学生への少人数制アドバイスプログラム、地域住民への法律相談などが例に挙げられます。

この規模が拡大したものが「大規模なダイレクトサービス」(Scaled Direct Service)です。活動や解決策が効率化され、取り組みを広範囲(全国的・全世界的)で展開し、より大きなインパクトを生むためのモデルとなっています。有名なものだと、赤十字や国境なき医師団などになります。

一方、問題を取り囲む社会の複雑に絡み合った要素を掘り下げることによって根本的な解決を促す、新しい社会問題解決モデルがシステムズ・チェンジでした。アショカが40年以上認定してきた社会起業家「アショカ・フェロー」の生む変革は、政府の政策変更を促したり、政府や他の主要組織に採用されるなどの影響力を持ち、多くの場合その分野に新しい基準を作り出すことにつながります。

【例】
・マイクロクレジット(小額ローン)は、最貧困層の女性が貧困から抜け出すための仕組みとなった。
・Bコーポレーションは、社会と環境に配慮している会社への認証システムをつくり、企業が社会に対して負う責任を再定義した。
・ウィキペディアは、オンラインの情報を民主化し貧富の差を超えて誰もが参加できるようにした。

 

このシステムズチェンジが進んだ先にあるのが、「フレームワーク・チェンジ」です。意識と行動のパターンの変革と言うこともできます。

多くのシステムズ・チェンジメーカーの出現によって、ある分野の基準と構造が変化すると、個人のマインドセットと行動パターンの変化につながります。これが大規模に起こると、社会全体でそれまで「当たり前」とされていた通念が一転して、もはや色あせたものとなり、 真新しい「当たり前」がとって代わります。このパラダイムシフトが「フレームワーク・チェンジ」です。

歴史を振り返ると、エリートや富裕層だけのものだった「読み書きそろばん」や参政権が、一般市民にとって「当たり前」のものになりました。同様に、人権や民主主義、男女平等という概念も一般に広まりました。

アショカの目指す "Everyone a Changemaker" 「一人ひとりがチェンジメーカーである世界」は、全員が「身の回りのおかしいと思うことに対して、自分が行動し、いい変化を作り出していく」社会です。つまり、フレームワークチェンジが起き、「チェンジメーカー」というマインドセットやアイデンティティが「全ての人の当たり前」になる、という世界を目指しています。

まとめ

何か起きている問題に直接対処していくのが、ダイレクトサービス。一方で、社会の一部となってしまっている問題の根本的な原因にアプローチし、問題が起きないような新しい仕組みへ変えていくのがシステムズチェンジです。

自分が取り組みたい問題がある方は、ぜひこのフレームワークを知った上で、どうやってアプローチするのがいいのか考えてみてください!

また、アショカ・フェローの人生を追体験することで、システムズ・チェンジをより深く理解するための90分授業、Journey of Innovation(ジャーニー・オブ・イノベーション)も行っています。ご興味のある方は、スタッフ<[email protected]>までご連絡ください。