
Kris Herbst works for Ashoka as chief editor for the Ashoka.org website. Prior to that he was Director of Community for Ashoka's Changemakers.com web platform, managing creation of content and communications through traditional and social media, as well as a team with members on five continents that mobilized participation in challenges for scaling-up social innovation. Prior to joining Ashoka and helping launch Changemakers.com in 1998, he developed the first websites launched by clients in Washington, DC including the National Press Club and the Biotechnology Industry Organization. His journalism experience includes Saturday Review magazine assistant editor; BioCentury newsletter contributing editor; and freelance journalist and television news producer for clients including Nippon TV Network and NHK Television. He received a Masters in City and Regional Planning from Harvard's Kennedy School of Government.
大変だ!私たちの間に横たわる違いを乗り越えることは可能か?

世界は日ごとに不寛容さを増しているようです。人々は多様であり、それぞれ異なる考え方を持っています。それでも、違いを乗り越えようと奮闘しているのです。
2017年1月以来、The People’s Supper(人々の夕食)プロジェクトは、これまで決して出会うことのなかったような人々を招き、同じテーブルに座って話し合うことにより、人間の「違い」を乗り越えようとしています。全米で200回以上行われた夕食会で、人々は自らの殻を打ち破るとともに、相手を一枚岩として、すなわち一つの単語やフレーズを把一絡げするような一方的なステレオタイプとして、決めつけることをやめました。
The People’s Supperの創設に尽力した三つの組織のうちの一つThe Dinner Partyの共同創業者兼エグゼクティブディレクターでアショカ・フェローでもあるLennon Flowersによると、人々は互いを、豊かで複雑な人間として理解するようになったのです。
FlowersはThe Dinner Partyを創設するため、他の二人のアショカ・フェローと力を合わせました。そのうち一人はEmily May(ネット上および公共の場における性的偏見に基づく嫌がらせを撲滅する団体Hollaback!の共同創設者)で、もう一人はJennifer Bailey信仰のリーダーたちに、健全かつ公平なコミュニティを築くためのさまざまなツールを提供することを目的とする、有色人種に配慮する団体Faith Matters Networkの創設者)です。彼らは、「他人を見て最善ではなく最悪の事態を想像してしまう」状況を変えるため、さまざまな橋渡しを行います。
「これは政党ではありません。ワシントンでの出来事とも関係ありません」とFlowersは語ります。「そうではなく、大統領選後の感謝祭の食卓で起きている家庭内の不和や、他者を見て、最善ではなく最悪の事態を想像してしまうようになったコミュニティから、このプログラムは生まれたのです。」
「ざっくばらんに話すための方法が必要だ」
The People's Supperはある実験からスタートしました。それは、ワシントンDCで新大統領が就任してから最初の100日間に、100回の夕食会を催して人々を招待することでした。「不可能とも思われましたが、結局は140回も開催できました」とFlowersは語ります。「私たちはそれ以降も、200回以上の夕食会を主催しています。需要も関心も高いため、少なくとも来年は継続できるでしょう。」
「多様性の中で人々の関係は希薄化しており、私たちは、他者の特徴を大げさに捉えるようになっています。すなわち、最悪のステレオタイプを信じてしまっているのです」とFlowersは語ります。「意見広告や論争では、このような状況を改善できないことに気づきました。私たちには、誰もが経験したことのある事柄を、ざっくばらんに話すための方法が必要でした。例えば、悲しかったこと、傷ついたこと、心が痛んだこと、そして喜びや希望について。このような事柄を他者と共有することで、自身や他者の見方が変わるのです。」
「The People’s Supperの目的は、政治的意見やアイデンティティの違いを乗り越えて人々を同じテーブルにつかせること、そして目と耳を十分に開いて互いを観察することです。そうすれば、互いの人間性を理解し信頼することができるのです」とEmily Mayは付け加えます。
Mayは夕食会のネットワークを、4年間かけて築き上げてきました。Flowersは自身の経験を活かし、喪失の経験をして深く悲しんでいる人たちの癒しの場として、夕食会を開きました。これらの夕食会によって、他者とつながり、悲しい経験を自発的かつ穏やかに語り、友人どうしのコミュニティを築くことができます。
深い悲しみについて友人と語り合った事が夕食会の始まりだった
Flowersは高校3年生だったとき、母親ががんと診断されました。そして大学最後の年を終えようとしていた頃、母親はステージ4のがんで亡くなりました。Flowersは東海岸からロサンゼルスに引っ越してから、こう気づきました:「母が生きた人生やそれが私の人間性に与えた影響について、また、母の死が家族のあり方をどれほど複雑にしたかについて、新しい友人にどう話せばよいか分かりませんでした。このようなことを話せば、友人達をびっくりさせてしまう」と思ったのです。
しかし、友人であるCarla Fernandezと一緒にコーヒーを飲んでいたとき、状況は変わりました。Fernandezが6か月前に父親を亡くしたことを打ち明けたのです。そのときFlowersは、自分の母親について何も語りませんでした。なぜならFernandezを「私の人生のことで不快に」させたくないと思ったからです。ところがその後、FernandezはFlowersを夕食に誘いました。そして二人は深夜2時まで語り合ったのです。
これが最初の夕食会でした。「このような場で私が気づいたのは、隠し事をせずに何でも話せるようなコミュニティを作れる、ということです。自分の人生の一部を手放す必要はないし、エピソードを封印する必要もないし、打ち明けることを遠慮する必要もないのです。関係が深まっていくにつれて、深い悲しみや喪失を、毎回または、必ず話す必要はなくなりました。それでも、何らかの出来事によって深い悲しみや喪失に襲われた経験や、今まさにつらい状況にあること打ち明けることができるのです」とFlowersは語ります。

「夕食会は、気後れすることなくこれらの感情を整理するための、一つの手段なのです。単純ですが極めて有効です。これはいわば、誰かを失ったという経験を、会話に水を差す話題から、会話の糸口となる話題に変えていくことです。また、ともすれば孤立感を覚えるような体験をあえて取り上げ、共感とつながりを生み出す重要な契機にしていくことでもあります。
「私達は夕食会の豊かなコミュニティを通じて、大きな孤独を感じるような経験を、共感を得られるきっかけに変えられるよう親身に取り組んでいます。このような話をするときは、誰もが慎重になったり人目を気にしたりするものです。それでもあえて語れば、他の人たちも自分の話をしやすくなるのです。」
理解する:夕食会とは何ですか?
母親の生命保険の保険金を受け取ったFlowersは、これを家賃の支払いに充てた後、最初の夕食会に向けた研修とスタッフ・リトリートの資金を調達するため、インディゴーゴー社のクラウドファンディングで資金を募りました。Fernandezとともに「The Dinner Party」を設立したことにより、彼女らは「最初の食卓で得た経験を再現する」方法を見つけ出せました。「私たちは部屋にいる必要がないし、決まりきった会話に頼る必要もありません。そして『The Dinner Party』を作ることによって取り除きたいと考えた、あの堅苦しい雰囲気ももはや存在しません。」
くつろいだ友人たちの集まりとして始まった会は、「グリーフ・サポート(悲しんでいる人々への支援)」を想像・考案し直す場へと変わりました。これこそが、喪失について私たちが考え、話し合うための効果的な方法なのです。
2013年末にわずか20人程度でスタートした「The Dinner Party」は、全米114都市で600回、そして米国以外でも150回以上の夕食会を開催するまでに成長しました。その結果、1回限りの参加者4,000人以上を互いに結びつけることに成功しました。
「私たちの第一歩は、そもそも夕食会とは何かを把握することでした。場を和ませるためのあらゆるヒントやコツから、オープンで率直な、うそ偽りのない会話を引き出すために不可欠な要素まで、あらゆることを理解しなければなりませんでした」とFlowersは語ります。「私たちは主催者ガイドブックを作成するとすぐに公開し、誰でもダウンロードできるようにしました。このガイドブックを活用すれば、誰でも知人たちを招き、通常では話せないような内容を語り合うことができるでしょう。」
「The Dinner Partyという会が持つ有機的な性質、そしてこれまでの私たちの進歩が、私たちが成功を収めている一番の理由です」とFlowersは付け加えました。「これらによって、私たちは迅速に行動できるようになりました。また、既存のシステムを警戒し権威に嫌悪感を抱く世代にも魅力的に映る、草の根の雰囲気を作ることもできました。取り組みが拡大すると質が低下するのでは、と危惧されるかもしれません。しかし、実際は全く逆です。人々は私たちの考えを一層評価してくださり、投資の増額にも前向きでした。」
The Dinner Partyは最近、「The Dinner Party at Work」という取り組みを実験的に始めました。これは、大切な人を亡くし悲しんでいる従業員たちが集まれる場を提供できるよう、職場のマネージャーを支援するものです。「喪失を経験した直後の数か月間、私たちは本当に多くのことを知ることになります。あなたが住むコミュニティが手を差し伸べてくれたかどうか、そしてあなたが勤務する職場がどのような対応を取ってくれたか、などです。多くのフィードバックによると、近しい人を亡くすと、勤務先の組織文化と業績に実に大きな影響を与えるにも関わらず誰もその対処方法を知らない、というのです。
「誰も冷酷な友人や同僚、上司になりたいと望んでいる人はいません。問題なのは、このようなデリケートな種類の会話を交わすための方法が知られていないことです。私たちは、深い悲しみを恐れる社会に生きていますが、このことについて深くは考えません。私たちは悲しみに関して、何か間違ったことを言ったり、誤った行動をすることを恐れます。結果、私たちは沈黙することを選びます。」
悲しみの解決が目的ではない – 孤独こそが鍵
夕食会が拡大していくにつれて、Flowersは夕食会を「死や喪失の悲しみに暮れている人々をつなぐことを超えた手段」と考えるようになりました。すなわち、経験を共有することで活力を取り戻し、周りとの繋がりを得る機会に繋げていくことができると考えたのです。
私たちの取り組みは悲しみに関することだけにとどまらないことに、私たちはすぐに気づきました。私たちが解決するのは悲しみではありません。なぜなら悲しみは解決できないし、解決したいと願うべきでもありません。悲しみはなくすものではなく、抱き続けるものなのです。なくすべきなのは孤独です。なぜなら孤独こそ、私たちを沈黙させるものだからです。何をしても孤独を感じてしまう。あなたは孤独以外の何かを感じ、行うべきです。孤独は関係性に亀裂を入れ、世の中にある他のあらゆる問題を助長してしまいます。」
「孤独に対しては、私たちが入り込んでその経験を共有することで、人々を繋ぐことができます。そうやって、あらゆるものの内側にある、レジリエンスの種を育てるのです。」
The Dinner Partyは、政治的立場だけでなく、さまざまな違いを乗り越える橋渡し役となりました。これにより人々は、互いに対して思い描いていた、レッテルやステレオタイプに基づく決めつけをやめることができました。「私たちは長い間このことを考えてきました。そして選挙を迎えたのです」とFlowersは語ります。

分断をもたらした昨年の大統領選挙を受け、The Dinner Partyは、「現在の政治に蔓延する悪意と戦い、政治や文化、人種や宗教、そして世代などのさまざまな違いを乗り越えて、本当の信頼と意義深いつながりを築き上げるため」の、癒しの場を設ける取り組みを始めました。人々は選挙が終わった後、つながりを取り戻し、選挙活動による分断を癒すための方法を求めていました。これを受け、The People’s Supperのニーズはさらに高まったのです。
需要の拡大に応えるための自助的な組織
このようなニーズに応えるため、3人のアショカ・フェローが力を合わせました。彼らは、口コミを広めて夕食会を組織するため、自らのネットワークを活用しました。「私たちはこんな未来を思い描きました。それは、異なるグループ(退役軍人のグループ、監禁された経験を持つ人々やその家族に奉仕する組織、家庭内暴力や性的暴行の被害者を支援するネットワークなど)に属しながら共通の経験を持つ人々が集まり、夕食会を開けるような未来です。」
この運動を共同で築き上げた3人のアショカ・フェローは、アショカとそのネットワークから支援を受けました。そしてFlowersは、アショカとそのネットワークに謝意を表しました:The Dinner Party、Hollabackおよびthe Faith Matters Network。これらの組織は「アショカのネットワークから生まれました。私たちの考え方も、このネットワークから生まれたのです。」と彼女は言います。「スタートしたときから、私たちの最終目標は、ある種の文化的な変革を起こすことでした。」「アショカは常に、わたしにとってのすべてです。アショカは、世界最高のアイディアと優秀な人物が集まる、驚くべき実験場なのです。」
彼らは自らの影響力を理解しており、またその影響力を駆使して世界中の人々に恩恵をもたらすことが自らの役割であることも理解していました。さらに彼らは、問題を理解・究明するための非常に高度な能力も兼ね備えていました。だから彼らは、世界を変える力があることを示せたのです。